人生オワ太郎のいろいろある部屋

人生が終わってない高校生のブログです。ハーメルンや小説家になろうで(クソみたいな)小説書いてますのでそちらもよろしくなのです。

他人と自分

仕事を終え、スマホを見ながら帰る。
自分の1日のプロセスは、いつもこれで終わる。
空気音とともに車両のドアが開いた。
俺は大宮駅駅舎から埼京線快速の車内へ移動した。車内は閑散としている。
この時刻であればしょうがない。帰宅ラッシュなどとっくに終わっている。
俺はイヤホンをつけ、スマホの画面を見つめていた。
車内の席に腰掛けると、プレイリストからお気に入りの音楽をかける。
よく考えると、いつもこれを聞いていた。
かけられたのを確認すると、ホーム画面へ戻った。
数個あるアプリ欄の中から、お気に入りのSNSアプリの1つを開いた。最も、開発者側はSNSではないと言っているらしいが・・・
読み込みが終わると、多くの投稿が表示された。

『今めっちゃどうでもいいこと思いついたんだけど今のゲームと昔の・・・』
『福岡、めっちゃ雪降ってる』
『本日から3日間限定でランチを頼んだ方にアイスクリームを無料で・・・』

フィード上に多くの情報が流れていく。
ありふれた情報、ありふれた投稿、ありふれた人々の投稿だった。
だが、自分もその一つだ。

『今日も上司が怒っていた。』
『明日も会社、これで10連続、マジきつい』

自分の投稿に他者の反応はほとんどなかった。当然といえば当然だ。
この国ではサービス残業、過重労働は珍しくない。SNSでもその情報が大量に流れ、それ故に誰もが聞き流していた。
当たり前ではない、だが当たり前な情報を発信してもさほど注目されない。
それでも投稿を辞める気はなかった。たまに来る反応のためか、
自己顕示欲のせいなのかはわからない。
不意に、一つの投稿に目が留まった。
数多くのコメントとお気に入りがされていた投稿だった。

『これどう考えてもネギだろ』

その言葉とともに1枚の写真が載っていた。
テニスかバトミントンかのラケットの写真だが、網の部分は映っておらず、下部の持ち手の部分しか映っていない。配色とデザインのせいか、確かにネギにしか見えない。
少しだけ、笑みがこぼれた。
くだらないこと、でもそこに面白さを感じる。
これがSNSをしている理由の一つなのかもしれない。そう感じていた。

 

 

まもなく戸田公園戸田公園、とアナウンスがながれた。
自分の住む町だ。
駅内部に根城を構えるコンビニに寄り、おにぎりとサンドウィッチ、それとサイダーを購入した。明日の朝食だ。
購入を終えると、駅構内から公道のほうへと移動する。
改札を出て5分、平凡な住宅街を歩き、平凡な自分が住んでいる平凡なアパートに着いた。
アパートの2階、そこが自分の根城だった。
鍵を開け、誰もいない室内に入った。
時計の針は、すでに日が変わっていることを表していた。
何かをする気にはなれない。また明日も仕事がある、すぐにでも寝なければならない。
俺は別途へ飛び込んだ。スーツを脱いだだけで、あとはほとんど何もしていない。
2LDKの部屋には、必要最低限のものしか置かれていない。
生きるため。本当にそれだけのための部屋だ。
就職して3年。
あの時は、まだアニメやドラマを多く見ていたし、ゲームもコンシューマー機でプレイしていた。
今はもう見ていない。見る時間も、気力もない。ゲームも通勤中の十数分程度だ。
なぜここまでつまらない人生を送っているのか。それは労働のせいだ。
なぜ労働をするのか。それは生きるためだ。なら、自分が生きているのはなぜだ?
親が育てててくれたから、社会の一員だから、生物の本能だから。
自分には、どれも正しいとは思えなかった。
生きているから生きる、ただそれだけ。ほかには何もない。
明日も残業、明後日も休みの返上が決定した。まさに仕事のための人生だ。
それなのにそれに疑問も持たず、まさに機械的に労働をしていた。
―――もう考えるのはよそう。
俺は何かに吸い込まれるかのように、多大な眠気が襲った。
今日も明日も、何も変わらない。それでも明日こそは・・・
少しずつ、視界が薄れてきた。

 

 

「さっきやっとけって言ったよなぁ!」

怒鳴り声が部屋中に響く。声の大きさは鉄道の騒音にも負けないぐらいだ。
おこることは部長のお得意芸だ。むしろそれしか取り柄がないだろう。
誰もが気まずそうな顔をしている。されど、助け舟は出てこなかった。
理由は単純、自分に飛び火するのが怖いから。
部長がよく怒るという周知の事実だ。ここにいる誰もが経験し、そのほとんどが理不尽な理由からだった。それに対する恐怖が、皆を思いとどまらせていた。
今の俺にできることは、ただ謝ることだけだった。

「俺言ったよな、やれって言ってたよなぁ!?」

違う、部長はそんなことは言っていなかった。
自分は記憶力がいいというわけではなかったが、業務に関することは事細やかにメモをするようにしていた。その業務をやるようには言われていない。
それでも反論をする気はない。俺はひたすら受け流していた。
平謝りの連続だ。ひたすら謝る。ただ謝る。ほかには何もなかった。

















「チッ―――ちゃんとやっとくんだぞ!」

何分経ったのかも覚えていない。ようやく怒りが収まったのか、部長は自分のデスクに戻っていった。自分も仕事場へ戻った。
嵐は過ぎ去った。だが、その爪痕は深い。
自分の存在意義はなんだろうか。
部長はご丁寧にもそれを考えざる終えない状況を作り上げてくれた。
自分は何のために働いている?
自分は何がしたくて働いている?
何が。何のため・・・
ここで考えるのをやめた。どうせ考えても何も出ない。自分を必要としているものはいない。
そんなの子供の時からわかっていた。
もはや、生きていても生きていなくてもどうでもいいと思えてきた。

仕事が終わり、自分は大宮駅で埼京線快速列車を待っていた。
今日はいつもより少し早く終わった。だがそんなことはどうでもいい。
とにかく楽になりたい。今考えているのはそれだけだ。今の束縛からの、社会からの解放。
自分にとっては死活問題だった。
解放のためにはどうすればいいのか。
一瞬、思いついたことがある。
死だ。生からの解放が、自分が最も楽になれる方法なのではないか。
幸いにも自分はそれをすぐに実行することができる。列車が目の前を通るのだから。
いつもより70センチほど近くに行けば、天国が待っている。少なくとも今はそう思う。
俺は電光掲示板を見た。
どうやら列車の遅れが生じているらしく、次の電車は12分ほど後になるという。
この間に何かやれることはあるのか。
とりあえず、近くにあった自販機から缶コーヒーを購入した。
飲みなれた味だ。だが、それが飲むという行為自体に、少し幸福を感じていた。
そして慣性からか、スマートフォンを取り出しSNSアプリを起動していた。
何か投稿することはあるのか。一瞬スマホをしまおうと思ったが、今の自分の心境を投稿したいと思い、それを書き上げた。

『もう人生疲れてしまった。
何もかもがどうでもいい。生きていても、死んでも何もない。
誰のため、何のために自分がいるのか、自分にはわからない。
本当に、疲れた』

遺書というわけではない。だが、最後に自分という人間がいたことを
証明したかった、そう思ったのかもしれない。投稿されたのを確認すると、スマートフォンをポケットにしまった。
もうそろそろだ。缶コーヒーの缶をごみ箱に捨てると、身体をホームの端のほうまで移動させた。ここならそれなりの速度で列車が来る。死ぬ確率も上がるだろう。
そういえば、と、ここで考えが浮かんだ。
自分は本当に死にたいのか。ここにとびこんでいいのかと、今さらながら考えが浮かんだ。
よくよく考えると、死にたいというほどでもない。
ただ、生きていく気力がない。生きる理由がない。それだけの事だった。

 

 

「まもなく、19番線に普通、大崎行きが参ります。危ないですから・・・」

SNSに流れていた投稿に、列車で自殺する人の特徴が書かれたものがあった。
それによると、自殺する人は自殺しようとしているのではなく、死んだらいろいろと楽になるのではないか、と考え死ぬ人が多いという。
真偽は不明だが、少なくとも自分はこれに当てはまっていた。
ここで、スマートフォンの通知音が鳴った。
この通知音は、自分の書き込みに反応してくれたことを表すものだった。
自分の投稿に反応してくるなんて、久しぶりのことだ。
自分の書き込みへのコメントを書いてくれた人がいたのだ。
思わず白線の内側へ下がってしまった。
スマートフォンを取り出し、アプリを再起動する。
新着情報欄に、投稿にメッセージが来たことを表していた。
投稿へのメッセージにはこう書かれていた。

『大丈夫ですか?』

何気ない一言。
本当に何気ない一言だった。
自分の投稿を見て何かただならぬ気配を感じたのだろう。自分のことを心配するコメントだった。
何か、感動というべきような感情が体を渦巻いた。
自分を機にかけてくれる人がいる。自分を心配してくれる人がいる。
今までほとんど孤独だった。友達も数えるほどしかいない。
そんな自分を気にかけてくれたのだ。
よく見ると書き込みは1つではなかった。

『まずは仕事を辞めることからしたほうが良いよ。人生割とどうにかなるし』
『自殺しようとしているならやめとけよ』
『まずここに電話してみるといいよ、本当に親身になってくれるし、いろいろ時が楽になるよ。自分もそうだった』
『その前に労基へ連絡は?家族への相談は?相談に乗ってくれる人は必ずいる。何なら自分がなろうか?』

他人の投稿に対する他人の反応が表示されていった。
少し、涙が出た。
この状況を言葉ではうまく表せなかった。ただただ、うれしい。それだけだった。
列車が目の前を通り過ぎた。
もう飛び込む気は全くなくなっていた。ゆっくりと、ドアが開く位置へ移動する。
書いた人にとっては何気ない言葉なのかもしれない。もしかしたら自分が本気で死にたいと思っているわけではないと感じているのかもしれない。
だがそれでもいい。その一言が、自分の命を救った。自分が死ぬことを思いとどませた。
電車ドアが開く。中の光が、やけに明るく感じた。

 

あの騒動から2か月、俺は池袋駅前にいた。
相変わらずこの街は騒がしい。
だが、いずれなれることになるだろう。
今日は新しい就職先へ初出勤だった。
2か月前の騒動の後、俺は退職した。
自分の中では退職するときには修羅場になると思っていたのだが、
上司はあまり反応を見せなかった。
恐らく退職することなんてよくあることなのだろう。周りのことを気にしていなかったから気づかなかったが、離職するやつが多かった気がする。
割とあっけない最期だった。
そして退職願が受理され、実際に退職するまでの間に労働基準監督署への相談も行った。
タイムカードといった証拠や、証言してくれた同僚などの助けもあり、労基の監査が近々はいるという。上の方は大慌てになるだろう。
ただし、すでに退職した自分にとっては対岸の火事に過ぎない。問題は今の自分の進路だ。
退職後、インターネットや職業安定所でさまざまな仕事を調べた結果、
新たな就業先が見つかった。
今度は労働時間や福利厚生なども調べたうえでの就職だし、
SNSで就労に失敗しない方法も聞いた。今度は失敗しない。
また一歩、新たな人生を送ることになるだろう。少なくとも前よりはよくなる。
信号が青に変わった。一斉に人々が前へ進む。
自分も同じだ。
そういえば、と、ここであることを思い出した。
短い言葉だが、これを伝えることを忘れていた。
アプリを起動する。
あらゆる情報、あらゆる投稿が飛び交う電子空間に接続した。
早速、自分をこれまで支えてくれた人々にむけた、ある言葉を書き上げた。まずはこれから投稿しよう。
この文章に間違いがないことを確認すると、投稿する、と書かれたボタンを押した。
自分の投稿が、フィード上に流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


『自分のことを支えてくださった皆さん、本当にありがとうございました』

 

 

 

 

 

 

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本作品はエブリスタ、小説家になろうでも投稿してます。

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